知りたい(桜島について)

07 桜島ビジターセンター

2015/06/17

館外の景色と見比べて

07_1.JPG 07_2.JPG

夏休みも終盤になるが、帰省や観光の方々で桜島はにぎやかだ。
桜島ビジターセンターにもお客さんが多い。
自由研究だろうか。メモを取りながら熱心に見学する子どもたちの姿は、この時期ならではの光景である。

桜島ビジターセンターは、火山のミニ博物館だ。
「博物館」と称するには少々頼りない広さだが、映像や展示で桜島を伝える施設。観光情報も提供している。
1カ月に数回、ボクもスタッフとして勤めている。

ここを楽しむもっとも手軽な方法は、シアタールームに入ること。
11分間の短い映像の中に、桜島のみどころがしっかりとまとめられている。
簡単に概要がつかめるので、時間がない方にもお勧めだ。

見学のコツをひとつ紹介したい。
センター館内の展示と館外の景色を見比べること、である。
地震波形が大きく動いたら、外へ出てみよう。山が爆発しているはずだ。
植生遷移のコーナーを見たら、すぐそばの遊歩道を散策してみよう。模型そっくりの景色が見られるはずだ。
館内の展示で完結せずに、外の景色も見て歩けば、よりこの地への理解と印象が深まるだろう。
桜島の屋外には、「本物の展示」があふれているのだ。
屋根のある博物館・ビジターセンターと、屋根のない博物館・桜島。
両者を組み合わせない手はない。

とはいえ、こういった見方はなかなか難しいし、それだけでは伝わらない魅力もたくさんある。
そこで、NPO法人桜島ミュージアムでは、センターを拠点にガイドツアーも行っている。
・・・と、ちょっと商売っ気を出してみました。
ガイドの有無はさておき、桜島を知りたい方は、大人も子供もぜひ立ち寄ってみてほしい。
なにげなく見ていた景色がガラッと変わる、貴重な体験ができるかもしれない。
入館無料なので、お気軽に。

NPO法人桜島ミュージアム 大村瑛
『南日本新聞』 2012年8月21日「桜島ルーキー日記(桜島ビジターセンター)」 ※筆者本人により一部加筆修正

08 桜島大根の街灯

2015/06/17

何度も楽しめる憎い演出

08_1.JPG 08_2.JPG

先日、南大隅町を車で走っていると、おもしろいものと遭遇した。
ドラゴンの街灯である。
町役場近くの国道沿いには、竜の装飾の施された街灯がずらっと並んでいた。
話を聞けば、町内で行われるドラゴンボートの大会をイメージしたものだとか。
これ目当てに訪れたわけではなかったが、思わぬ出合いに立ち止まり、シャッターを切った。
地域の特色のさりげないPR。
みつけたこちらもうれしくなってしまう。

桜島にも同じように、みつけるとニヤッとしてしまう街灯がある。
赤水展望広場などの観光スポットを走る市道224号線には、桜島と桜島大根をモチーフにした街灯が並んでいるのだ。
てっぺんの装飾はまさに桜島。
横長にどしっと構える姿や、標高によって異なる山の色合いが、単純だが忠実に再現されている。
明かりが灯る部分は、丸く太った桜島大根。青々とした葉も、もちろんある。
2キロ以上にわたり、このユニークな街灯が道路を見守っている。
初めて発見したときには、心の中で小さなガッツポーズをした。

こちらの街灯、一度のみならず、何度も楽しませてくれる。
途中で形が変わるからだ。
桜島港側から道を進むと、ある場所を境に山が噴火をはじめるのだ。
南岳から上がった噴煙は、南東方向へ流されていくようである。
さらに、桜島大根の葉っぱもいつのまにか姿を変えている。
山の噴火はわかりやすいが、大根葉の変化には数回と追っても気が付くことができなかった。
なんとも憎い演出ではないか。

このような、気づくかどうかギリギリのB級(失礼?)スポットを探し出したときの喜びは、なんとも言いがたい。
自分しかみつかられなかったのではというドキドキ感。誰かに言いたくなるウズウズ感。
ついこの場で紹介したくなってしまった。桜島では、街灯にも注目すべし。

NPO法人桜島ミュージアム 大村瑛
『南日本新聞』 2012年9月4日「桜島ルーキー日記(桜島大根の街灯)」 ※筆者本人により一部加筆修正

09 白浜の石畳道

2015/06/17

生活変化し役割終える

09_1.JPG 09_2.JPG

雄大な山容、溶岩原、噴煙など、圧倒的な自然が生みだす火山の景色は、桜島の一番の魅力である。
しかし、麓や周辺で暮らす人々があっての「桜島」だし、火山で遊ぶ方法だってたくさんある。
連載では、地域に残る生活の遺産や、桜島の遊び方など、ガイドブックにはあまり載らない魅力も随時紹介していきたい。

桜島の北部、奥平バス停付近から200メートルほど山側へ進むと、白浜の石畳がある。
島の歴史を知る上で、ぜひ訪れたい場所だ。

人がやっと行き違いできるかという幅の石畳道が、山へ向かって延びる。
緑深く風情ある小道だ。
石の大きさ、形状は必ずしも均一ではなく、人の手で造られたであろうことがうかがえる。
靴底から伝わるゴツゴツとした感覚を味わいながら坂を上れば、3分ほどで行き止まりにぶつかる。

以前は、島内各地にこのような石畳の道があったそうだ。
山へ向かう道は、未舗装のままだと雨水や生活排水で浸食されてしまう。
それを解決するために、石が敷かれていったという。
しかし、自動車の普及に伴って、昭和中ごろより徐々に失われ、現存するのはここだけ。
生活の変化によって、石畳は役割を終えた。

昔の景色を思い浮かべてみる。
あちこちにみられる石畳。道の両側に並ぶ家。
往来する人々や駆ける子どもの声。上り坂の向こうでは、南岳が時折息を吐く。
桜島の日常。たくましく美しい、火山島の暮らし。苦労は多くとも、山と生きる人々。

この記事を書くにあたり、あらためてここを歩いてみた。
すると、行き止まりだと思っていた場所から、まだ先にも道が通じているではないか。
人の行き来はほとんどないため、火山灰が堆積し、倒木が道をふさいでいた。
悪路をさらに約3分。白浜の石畳道は今度こそ終点を迎えた。

NPO法人桜島ミュージアム 大村瑛
『南日本新聞』 2012年9月18日「桜島ルーキー日記(白浜の石畳道)」 ※筆者本人により一部加筆修正

10 退避壕

2015/06/17

ユニークな形や造り

10_1.jpg 10_2.jpg

桜島には、多くの退避壕(ごう)が設置されている。
これは、噴火に伴う噴出物から身を守るためのシェルターだ。
生きている火山ならではの建造物である。

形や大きさはさまざま。誠に勝手ながら、大雑把に分類してみると次のようになる。
戸のない大きな物置のような「物置型」、半円状の空間が作られた「トンネル型」、遠くからは小さな住宅に見える「一軒家型」など。
さらに、ひとつずつじっくりと見比べると、もっとたくさんの違いがあることに気がつく。
今日はユニークな「物置型」退避壕を紹介したい。

まずは、国道224号線沿い、大正溶岩原の上にある3つの退避壕だ。
これらの特徴は、周りをぎっしりと溶岩で覆われていること。
景観に配慮して、このように装飾されているのだろう。
確かに、無機質なコンクリートのままよりも、荒々しい岩をまとっていた方が桜島らしい。
写真のように、積まれた溶岩の上からは、クロマツなどの植物が成長を始めている。
いよいよ周囲の溶岩原と同化しそうである。

松浦町の退避壕にも注目したい。
こちらは、バス停と一体化しているのだ。
壕の内側には、「松浦」という停留所名や時刻表が張られ、椅子もちゃんと置かれている。
バスを待つ間の安全を考慮して、このような造りになっているのだろうか。
雨風もしのぐことができ、使い勝手は悪くなさそうだ。
待合所が退避壕であるバス停など、全国探してもそうないに違いない。西道や薩摩赤水(赤水麓)バス停も、よく似た造りをしている。

各退避壕は、噴火被害の防止という共通の役割を果たしつつも、それぞれ個性にあふれている。
島内を一周すれば、たくさんの壕に出合えるはず。
道路脇の景色もちょっと気にしながら、桜島を巡ってみてほしい。

みなさんのお気に入り退避壕情報求む。

NPO法人桜島ミュージアム 大村瑛
『南日本新聞』 2012年10月2日「桜島ルーキー日記(退避壕)」 ※筆者本人により一部加筆修正

11 火山灰か溶岩か

2015/06/17

ハイレベルな会話に驚嘆

11_1.JPG 11_2.JPG

A氏「毎日火山灰が降って大変」
B氏「早く溶岩を流して噴火が落ち着けばいいのに。溶岩流はゆっくりだから逃げられるし」
A氏「ですよね。けど私の家が埋まってしまうかも」
両氏:「ハハハ」
ある日の地元の人同士の会話だ。
なんとレベルの高いやりとりなのだろうか。
勝手に検証したい。

 「灰が降って大変」。おっしゃる通りである。
噴火は何度見てもカッコいいが、降り続く火山灰には苦労も多い。農業などへの影響は計り知れないし、日常生活だって大変だ。

 「溶岩流して落ち着けばいいのに」。
これが一番驚きのセリフである。
降り続く火山灰VS溶岩。
究極の選択の後、B氏は溶岩流出を選んだ。

 「溶岩流はゆっくり...」も的を射ている。
粘性の高い安山岩質の桜島溶岩は、あまり速くは流れない。
条件によって異なるが、大正溶岩の平均流速は、1時間でたったの100m程度だったという。
溶岩に限れば歩いてでも逃げられる。

 「私の家が埋まってしまうかも」。そうなのだ。
その可能性を否定できないのが桜島で暮らす者の宿命である。
しかし、それを「ハハハ」と笑い飛ばすたくましさ。
うーん、参ったな。こりゃすごいところへ引っ越してきてしまったぞ。

島内や周辺の方へ桜島のことをたずねれば、思い出を交えて様々な話をしてくださる。
その中には、日常の降灰被害や噴火災害なども、もちろん含まれる。
火山と生活が密接に関っている証拠だ。
住民が自分たちの暮らす土地の自然環境を語れる地域は、そう多くないのではないか。
誇りにすべきことである。

一方で、今後桜島は、私たちが経験したことのない現象を引き起こすこともあるだろう。
大噴火の際になにが発生しうるのか。
そちらも改めて確認し、しかるべき行動を考えておきたい。
想定外に悔やむことのないように。

NPO法人桜島ミュージアム 大村瑛
『南日本新聞』 2012年10月16日「桜島ルーキー日記(火山灰か溶岩か)」 ※筆者本人により一部加筆修正

前へ 12

このページの先頭へ戻る