18 湯之平展望所

夕暮れから息のむ眺望

18_1.JPG 18_2.JPG

函館山、神戸市摩耶山、長崎市稲佐山からの夜景を「日本三大夜景」という。
それぞれ趣は異なるが、言葉を失うほど美しい。
これらには「海辺の人口密集地を山から見下ろす」という共通点がある。
錦江湾に面した鹿児島市街地を見下ろす桜島は、夜景の名所でもあると思う。

湯之平展望所は島内で最も人気の観光地といってもよい。
登山禁止の今、一般の人が立ち入りできる、最高地点の展望所だ。
標高373メートルからは、荒々しい山を目の前に、西側には海を挟んで市街地を一望できる。
乗用車、タクシー、観光バスが次々と訪れ、周遊バス「サクラジマアイランドビュー」も停車する。
「桜島へ来たらココは外せない」といった場所だ。

訪れる人の減る夕暮れ時から、景色はめまぐるしく変化する。
太陽は、あらゆるものを赤く染めながら、市街地の背中へ落ちてゆく。
日に照らされた山は赤く燃え、山肌に刻まれた谷が黒い影を作る。
この時間帯には、四方どこを見ても、息を呑む景色が広がる。

日が沈めば、空は赤と青のグラデーションに彩られる。
マジックアワーだ。
空の青が濃くなるにつれ、対岸の明かりが増えてゆく。
一瞬にして美しい夜景ができるわけではない。
最初に小さな明かりがポツポツとともり始め、徐々に光が強くなってゆくのだ。
きっとみな、それぞれのペースで夜支度を始めるのだろう。
家路についたのか、行き交うフェリーや車が忙しそうだ。
鹿児島の街を空から独り占めしたような、また優しく見守るような気分である。

「桜島を見るとほっとする、帰ってきたことを実感する」という県民や出身者は少なくないと聞く。
ここから街を見下ろせばわかる。
弱く小さい光のひとつひとつを、しかし集まれば宝石のように夜に浮かぶ数十万人の力強い光を、山はきっと見守ってくれている。

NPO法人桜島ミュージアム 大村瑛
『南日本新聞』 2013年1月29日「桜島ルーキー日記(湯之平展望所)」 ※筆者本人により一部加筆修正

このページの先頭へ戻る