38 白浜トンネル

「陸の孤島」解消して40年

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桜島港から約9km。
東白浜バス停から県道を外れて、住宅街を通り抜けていくと、「白浜トンネル」が姿を現す。
入口には「白浜隧道」の文字。
島内唯一といわれるトンネルだ。

道幅4m、全長112mの小さなトンネルの先には、出口の景色がかすかに見える。
向こう側にはどんな景色が広がっているのだろうか。
期待しながら暗い道を進むと、あっという間に出口だ。
住宅と港が見えてきた。

トンネルの先は古河良(ふくら)地区だ。
桜島の町らしく、静かな家並みの中心に避難港がある。
島内各地にある人工的な建造物だが、ここでは周囲の自然に溶け込んでいるように見えるから不思議だ。
ボクのお気に入り避難港ベスト3のなかのひとつ。
のんびりぼーっとするために訪れたい場所である。

古河良は、厳しい地形の中にある集落だ。
町の三方は、古い溶岩でできた崖に囲まれている。
そして、もう一方は海である。そのため、近隣地域へ移動するためには、険しい山道を越えるか、船で海を駆けなければならなかった。
桜島郷土誌には「陸の孤島」だったと記されている。

白浜トンネルは、そんな古河良の交通事情を改善すべく、1973(昭和48)年に開通した。
現在では、自家用車や路線バスがこの道を走り、周辺地域との行き来は容易になった。
一見小さく頼りないこのトンネルも、生活に欠かせないインフラなのである。

ボクの育った神奈川県横須賀市も、トンネルの街である。
その数は150を超え、日本一多いとも言われている。
しかし、ボクはそれらにまつわるエピソードをほとんど知らない。
昔、何気なく通っていたトンネルのひとつひとつにも、地形や生活にかかわる物語が隠れているのだろう。

「たまには故郷のことも学べ」と、白浜トンネルに宿題を課されたようである。

NPO法人桜島ミュージアム 大村瑛
『南日本新聞』 2013年11月12日
「桜島ルーキー日記(姫宮神社の浜下り)」 ※筆者本人により一部加筆修正

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