32 桜島納涼観光船

夏祭り詰め込み運航

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桜島では、夏になると毎日のように水中花火が上がる。
午後8時半頃、ドン、ドン、とリズムよく音を立てながら、水面を彩るのだ。家や職場、ボクの生活圏内ではどこにいようとこの音が聞こえてくる。
夏を感じさせる音だ。

この花火を特等席で観覧できるのが、桜島納涼観光船だ。
1978(昭和53)年より運航開始。桜島フェリーの通常航路が大混雑するお盆をのぞき、夏休みのほぼ毎日運航されている。
8月末には定員オーバーになることもあるという、鹿児島の夏の風物詩だ。
今年、桜島在住4年目にして、初めて乗船した。

午後7時、ちょうど日が沈むころ、大きな汽笛とともに納涼船は鹿児島港を出港した。
船内に入って驚くのは、乗り慣れたフェリーの変わりようである。
1階車両甲板は、屋台の並ぶ縁日のよう。
2階車両甲板には客席となる畳がずらっと敷き詰められ、その先頭にメーンステージがある。
3階客室こそ普段とはあまり変わらぬ様子だが、涼みながらクルーズを楽しむにはもってこいだろう。
4階は洋上ビアガーデン。
なるほど、フェリー一隻に、夏祭りを詰め込んだような仕上がりだ。

出港後の楽しみ方は様々だ。
錦江湾の景色を眺めたり、ステージで絶えず行われるプログラムに参加したり、食事やお酒に夢中になったり...。
途中、乗客が一斉に海の向こうに目をやり、次々とカメラのシャッターを切っている。
なにかと思えば桜島の噴火である。
噴火もまた、祭りを演出するプログラムの一つかのようだ。
そして、最後を締めくくるのが、前述の水中花火というわけだ。
本当に手が届きそうな場所で上がる花火に歓声が上がる。
午後9時に鹿児島港へ到着。
船上夏祭りを終えた乗客が笑顔で帰路に就く。

次の日曜日を過ぎれば、花火の音はもう聞こえてこない。
桜島の夏も、残すところあとわずかだ。

NPO法人桜島ミュージアム 大村瑛
『南日本新聞』 2013年8月27日
「桜島ルーキー日記(桜島納涼観光船)」 ※筆者本人により一部加筆修正

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