12 有村溶岩展望所

島内1、2位を競う観光地

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ヒッチハイクをしたことがある。
稚内から函館までの北海道縦断。
最後の数十キロを乗せていただいたご夫婦の言葉が印象的であった。
「山は見る角度により姿を変える。見る場所により、表情は様々である。人と同じだ」。
車は南下を続けている。
さきほどから眺めていた北海道駒ケ岳は、いつの間にか形を変えていた。

それから半年も経たぬ間に、鹿児島を訪れることとなった。
初めて桜島を見たのは、九州自動車道の加治木付近から。
太陽を浴び海に浮かぶ姿は威厳に満ちていた。
鹿児島市街地に着くと、ビルの向こうに山が見える。
ゴツゴツとした横長の姿は、事前に思い描いていた桜島そのものであった。
島内では、有村溶岩展望所へ立ち寄った。
さっき市街地で見た山と同じものとは思えぬ、円錐型の姿があった。
山肌は意外と滑らかで、優しい印象だ。

桜島は北岳と南岳から成る。
円すい型で標高の近い二つの火山が南北に連なるため、西側の鹿児島市街地からは横に長く見える。
一方、南側の有村からは、南岳のみを正面に望むので富士山のような形に見える。
東西南北どこから見ても形が変わり、地元の人でなければ同じ山とはわからないかもしれない。

有村溶岩展望所付近は、大正溶岩の被害を受けた地域だ。
今から100年前、ここ有村は東桜島村の中心地であった。
役場が置かれ、温泉地としても繁栄した。
現在、当時の町の中心は分厚い溶岩の下に眠り、ほぼ同位置に作られた展望所は島内で一二を競う観光地となった。

山が姿を変えるのは、眺める角度によってだけではない。
時間帯により、桜島は七色に表情を変える。
激しい噴火活動により景色を一変させたかと思えば、長い間静かに穏やかに生活を見守ることもある。
物言わぬ、しかし感情を秘めた人間のような振る舞いに、人々は共感、愛着、畏れを抱くのかもしれない。

NPO法人桜島ミュージアム 大村瑛
『南日本新聞』 2012年10月30日「桜島ルーキー日記(有村溶岩展望所)」 ※筆者本人により一部加筆修正

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