34 赤生原の二つ石

二重の物語抱えた巨石

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ボクが桜島へ来て一番初めにしたことは、島内にある「地域資源」の調査だった。
よく知られた観光スポットのみではない。
集落にある石碑や景観、地域の商店や飲食店、面白い看板などを調べて回る、宝探しのような作業だ。
中には、「これが地域資源なの?」と、一目見ただけでは首をかしげてしまう所もある。
しかし、すべてに物語が隠れているのだ。

赤生原の二つ石は、長谷港北側の海岸に横たわる大きな岩だ。
高さ約1m、周囲約7m。砂浜に埋もれているので、実際はもっと大きな岩なのだろう。
「二つ石」の名の通り、このような岩が数mの間隔をあけて二つ並んでいる。
一見ただの岩にしかみえない。
しかし、ここにもおもしろい物語があった。

『桜島町郷土誌』には、この岩にまつわるこんな民話が記されている。

―昔、漁をして暮らす老夫婦がいた。不漁で皆が困り果てた年、海岸の二つ石に現れた神功皇后は「飲まずに釣り場で一滴ずつ海に落とすように」と、お爺さんに神酒を渡した。お爺さんは言われたとおりにした。すると、たくさんの鯛が釣れ、村人は皆喜んだ。老夫婦は神功皇后に感謝し、二つ石にしめ縄をかけて赤生原の守り神にした(要約)

視点を変えると別の物語も見えてくる。
二つ石は山の上から運ばれた土石流堆積物だと考えられている。
桜島とは切っても切れぬ、荒々しい自然現象の爪痕でもあるのだ。
災害をもたらしたかもしれない土石流の一片が、民話となり人々の信仰の対象となったのである。
なんとも火山の島らしい。

どんな人にも、人生の数だけ物語がある。
同様に、どんな土地にも、どんなモノにも物語がある。
その物語を見出し、その物語を楽しむことができたなら。
ボクたちの身の回りでは、数えきれないほどの宝物が発掘を待ち望んでいるのだろう。

NPO法人桜島ミュージアム 大村瑛
『南日本新聞』 2013年9月24日
「桜島ルーキー日記(赤生原の二つ石)」 ※筆者本人により一部加筆修正

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