26 溶岩の石垣

集落彩る緻密な"芸術"

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「桜島の魅力を簡単に教えてほしい」

こんな問いを投げかけられたら、みなさんはどのように答えられるだろうか。
「非常に活発な火山であること。そして、そこに人が暮らしていること」。
ボクはこう答える。
毎日のように煙を上げる山の裾野が、人々の生活の舞台となっている。
このような場所は、世界中探してもナカナカ見つからないはずだ。

島内に点在する集落には、共通点がいくつかある。
例えば、港と坂。
穏やかな錦江湾を目の前に望む集落の港から後ろを振り返ると、必ず山の方へと延びてゆく坂道がある。
島であり山でもある抜群の自然環境の中に、桜島の暮らしは息づいている。
共通点はそれだけではない。
溶岩でできた石垣も大きな特徴だ。

そんな集落の中でも、あちこちに溶岩の石垣が残る東桜島町の湯之地区は、散策にオススメの地域だ。
道沿いに積まれた石垣の高さはひざ下程度から、人の背をはるかに超えるものまで、さまざま。
年代や作り手の違いによるのか、溶岩の大きさや形状は石垣ごとに少しずつ異なる。
しかし、どれもパズルのように隙間なく緻密に組み上げられており、その美しさにため息が出る。

石垣の活躍の場は町なかにとどまらず、中腹まで広がる農地でも数多く見ることができる。
その材料の多くは、土石流で運ばれてきた堆積物である。
島内の浜には、さまざまな大きさの石がごろごろと転がっている。
雨水に削られた溶岩が、土石流となって下流に運ばれてくるためだ。
それを利用して、古くから石垣が作られてきたのだという。
火山の島では、最も手軽に得られる石が溶岩だったのだ。

一周道路を少し外れて町を歩けば、普段気づくことのない島の魅力に出合えるはずだ。
展望所からの眺めもいいが、集落の風景も負けていない。
火山と人、そのどちらもが揃ってこそ、「桜島」なのだ。

NPO法人桜島ミュージアム 大村瑛
『南日本新聞』 2013年5月28日「桜島ルーキー日記(溶岩の石垣)」 ※筆者本人により一部加筆修正

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